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●「eBOOK JAPAN」電子書籍コンソーシアムの挑戦
- (11/24/99更新)
- 試作機であしたのジョーを読む
1998年10月2日、「電子書籍コンソーシアム」が発足しました。
会員企業は、出版社、新聞社、家電メーカー、書店、通信事業者など今では140社を超えています。
設立趣意書によると、
- 衛星通信をはじめとするデータ通信の技術
- 新しい高精細液晶の技術
により、新しい書物を直接読者の手に届ける安価な手段を提供するところまで進歩したとし、コストの低減をうたっています。
また、物理的在庫を保持する必要もないため、絶版の必要性がないことをあげ、読者のみならず、著作者にとっても大きな意義があると言っています。
似たような話は、これまでも言われてきました。けれど、実際には、紙の文庫本より高かったり、扱いにくく重く高価なブックリーダーを購入しなければならなかったり、実際の品揃えが、小さな書店よりはるかに少なかったりしていました。
たとえばNECのデジタルブックは百数十冊でした。コンビニの本・雑誌コーナー方がはるかに品揃えがあります。
読者にとってメリットのないシステムは当然に淘汰され消えていったわけです。
電子書籍コンソーシアムでは、実験開始時3500点、実験中に5000点の電子書籍を揃えるとしており、いやがうえにも期待が高まります。
電子書籍コンソーシアムの携帯ブックリーダーは、「小型超高精細XGA(1024×768)液晶で、コミックスも読める」という触れ込みです。
コミックスだけでなく、表紙の装丁なども再現できるとしています。
期待したいのは、ソニーの電子ブック(これは辞書に限ってはある程度成功している)やNECのデジタルブック(これは全くの失敗−のべタイトル数約二百で終わった。ジャンルも囲碁ばかりが多かった。)のように、メーカー主導でなく、出版社主導である点です。
逆に、衛星通信や高精細XGA液晶の専用端末にこだわりすぎると、成功はおぼつかないでしょう。
可能性の高い、二つの技術的柱ではありますが、読者が本を読むのに必要かどうかこそが重要なのです。
ブック オン デマンド システム総合実証実験が1999年11月1日〜2000年1月31日に行われています。
既に、966冊(コミックス358冊を含む)の書名が主なタイトルとして具体的に公表されています。
電子書籍リーダの試作機は、1024×768ドットモノクロ8階調半透過型液晶バックライト付きで、単三型乾電池4本で駆動します。
外形寸法は幅170mm×奥行215mm×高さ25mm〜31.5mmで、重量は電池を含めると約800gになります。
電子書籍データ記録用のメディアは「Clik!ディスク」となっています。
ACアダプターによる駆動も可能です。付属のACアダプターはサイズは割と小さなものです。
本体には、「前頁」ボタン、「次頁」ボタンが正面左横に、カーソルボタン、「メニュー」ボタン、「実行」ボタン、「取消」ボタンが正面下に、底面に電源兼バックライトON/OFFボタンがあります。
裏面には電池ボックスの蓋と、電池ぶたロックスイッチ、キーローックスイッチがあります。
ブックリーダーとしては、いかんせん大き過ぎ、重過ぎるのではないでしょうか?
液晶については、解像度の高さこそが、紙の書籍と従来の電子書籍の最大の違いではなかったかと思わせる素晴らしいもので、試作機を見た者は異口同音に「これならコミックが読める」と言うほどです。
実際、これまではコミックの電子化は読む環境の面で困難でしたが、電子書籍コンソーシアムのリーダーは、初めてそれを可能にしたといって良いと思います。
コミックは出版点数も多く、本棚に入りきらずに処分する場面も多々あるため、電子データ化によって、場所をとらずにいつでも好きな作品が読めるようになることを期待してしまいます。
流れが激しいジャンルのため、電子データ化によって入手難のコミックが減ることも期待したいと思います。
電子書籍データの販売は全国19個所のメディアスタンド設置店で行われています。
IDカードとClick!ディスクを渡し、書名を申し出ると、店員がメディアスタンドを操作し、電子書籍データを一冊あたり数分でClick!ディスクに書き込み、あとは代金を支払えば終わりです。
つまり、紙の書籍のような、製本や帯掛け、付票挟み入れ、店頭陳列、返本、研磨作業、在庫管理、運送、倉庫、カバーサービス、袋入れ、展示スペース等は一切不要だということです。
本屋の店員が腰を痛めながら整理、という手間はかからないわけです。
総合実証実験で、最大の問題と感じているのはデータフォーマットです。
読者にとって、という立場を無視した全グラフィックフォーマットと思われます。(未解析ですが、ファイルサイズを見るとテキストのみの書籍とコミックでデータ量が同等から倍程度です。)
つまりスキャンしただけでコード化されていない。
このため、拡大表示にしても、大きいフォントを使用した表示に切り替わって自動桁折り表示にはなりません。拡大表示すると、ただ単にキャプチャされたページを部分拡大表示し、いちいちスクロール操作をして一頁全面を読んでいかなければなりません。
小さい字で見にくいから大きいフォントで読もう、ということが実際上できないわけです。
当然、引用等の再利用もできません。
たとえば、玉上琢彌訳註の源氏物語を購入したとして、斎宮で検索しようとしても、文字コードになっていない以上、検索自体がもともと不可能です。
従って、「兵部卿の宮」を含む文を抽出し、それが源氏物語の進行と共にどう変化したかを調べようとしても、まったく不可能です。
「嘆きわび空にみだるゝわが魂を・・・」のところを読み返そうとしても、一頁ずつめくりながら目で見て探さなくてはなりません。
マイクロフィルムに焼いてあるのをフィルムリーダーで見るのと同様です。
だから、マイクロフィルムと同程度の活用の可能性しか生まれないのです。
メリット皆無のやり方だと思います。
装丁は、読者にとって、書籍の百分の一の価値もない余計な事ですし、文字コードにない文字は外字にすれば良いだけですから、このようなデータ形式にする理由はありません。
テキストデータを採用しないため、軒並み10数MBの大容量となっています。
テキストデータなら、0.1MB〜0.5MB程度ですむはずです。たとえば、青空文庫の「坊っちゃん」はわずか0.17MBです。
このデータ形式の採用のため、
- フォント切替による自動桁折り等の柔軟な処理が不可能なため、小さい字で読みにくい
- 文字列の検索が不可能。あとで気になった言葉を捜そうとしても、一頁ずつめくっていかなくてはならない。
- 書籍データを開くまでに延々数十秒待たされる
- 高速配信のはずなのに販売店でかなりの時間顧客を待たせる(3冊買うのに10分程度)
- テキストデータへのコンバートができず、利用範囲が狭い
- 英語等への自動翻訳処理ができない
- 点訳などによる視覚障害者への提供が不可能
- 統計解析による文学研究には使用不可
- 新たな文化が電子書籍から生まれない
- 振動・落下の衝撃、手荒な扱いで壊れるClick!の採用
- 40MBのClick!ディスクに1〜2冊しか入らない
- ページ送りひとつとっても待たされ、操作性が落ちる
- 大容量データの保持のためリーダーには大容量のメモリを必要とし、高速なCPUを必要とし、高解像度の表示装置が必須となる
- 結果、リーダーには大きな筐体と、4本の電池が必要となり、しかも電池の持続時間は短く、重量は重く、操作性は極めて悪くなる
等々、山のような欠点をかかえています。
しかもこれらは液晶技術や電池の技術、衛星配信の技術の問題ではなく、電子書籍コンソーシアムの参加企業の担当者が採用したデータ形式が不適切なためであり、技術の進歩によっても改善することができません。
このままでは、読者にとって使いにくいシステムとなり、NECのデジタルブック同様、失敗してしまうでしょう。
電子書籍コンソーシアムに参加している企業の方は、これで本当に良いと思っているのでしょうか?たとえば5年後に自らの仕事を振り返ってその愚かさに恥ずかしくなるとは思わないのでしょうか?
実験期間中のみ、このデータ形式を採用し、実用化の際には一般的な(変換可能な)データ形式を採用することを強く望みます。
(実験参加者は、自費でデータを購入しているのですが、それらの方々には犠牲になっていただくしかありませんね。)
実験期間中のみのデータ形式とした場合でも、データ形式を公開すること、テキストデータ、BMP形式等のグラフィックデータへのコンバートソフトを電子書籍コンソーシアムで作成、無償配布することは最低限必要なことです。
コミックスの電子データ化の意義しか、電子書籍コンソーシアムにはないのでしょうか。
なお、コミックのデータ形式としては、電子書籍コンソーシアムのBVFA0.14より、拡大表示したときの文字部分の読みやすさという点で、PDFの方が優れています。
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文市(あやち)=青野宣昭