サントリーの缶紅茶「ピコ」の宣伝でおなじみの「一芯二葉摘み」ってご存知
でしょうか?
これは、一つの新芽とその周りの葉二枚を手摘みする紅茶の茶葉摘採のやり方の
ことです。
というと、まるで色々な摘採の方法があるみたいですけれど、紅茶の摘採は現在全てこの方法(一芯二葉または一芯三葉)です。
宣伝になるような特殊、あるいは高品質な摘み方ではありません。
さあ、ここでは紅茶の茶葉のかたちについて見ていきましょう。
もともとのお茶のふるさと中国では、ホールリーフが主流でした。
今の紅茶はたいてい生産工程の中でカットされますが、これがないわけです。
そして、中国茶はこの茶葉の外見−見た目にも価値をおきます。
つややかに黒く光り、よく撚れた茶葉を上とします。
紅茶は、キーモンの工夫紅茶として生まれましたが、この工夫茶とは手間暇かけて作ったお茶、という意味です。
そうしてできる中国工夫紅茶は、一枚一枚の茶葉が撚られているものの、カットされてはいません。
キーマンを飲んだ後に茶殻を広げてみてください。
楕円形のチャの葉がそのまま入っていることがわかるでしょう。
さて、インドやセイロンでのプランテーションにより、紅茶は生産量が飛躍的に拡大しました。
そこでは、消費地イギリスでの評価を積極的にとりこみ、茶葉の見た目より、飲んだときの香味の良さやカップに入れたときの水色の美しさを積極的に評価していきました。
また、徐々に機械化を進めて衛生的で安価な製品を大量に生産することに成功します。
香気に優れ、出のよいインド・セイロン茶は中国紅茶を駆逐してゆきます。
さらに、産業社会の進展とともに、出の良さ、特に早く出ることは重視されてゆきます。
ホールリーフタイプの茶葉はなかなか出にくいのが欠点です。
これに対し、カットされた茶葉は、より淹れやすくなっています。
しかし、カットされた茶葉の場合、茶葉の繊維質が湯中に溶けだしやすく、飲後に舌に嫌な違和感を残すという欠点があります。
OPからBOPやBOPFといった細かく切断されたものにシフトしていくと、その欠点も露になります。
えぐみが出るような茶葉だと、紅茶としてはやはり質が低いと言わざるをえないと思います。
紅茶の本来の香味を簡単に十分に出しきれるブロークンタイプの紅茶は、紅茶の魅力の元となる水溶成分の抽出が容易なため、良質の茶葉を使用することによりえぐみを押さえ、長所を生かして普及していきました。
現在は、さらに状況は進んでいます。
それは、茶葉生産の機械化が進み、CTC機が大幅に導入されています。
そしてその背景には、ティーバッグの普及が大きく上げられます。
ティーバッグは、茶殻の処理が簡単になるだけではなく、従来より素早く淹れられるように工夫されているのです。
ティーバッグを破いて中身を出してみると分かりますが、
多くはCTC加工された茶葉と、
茶葉の生産工程で出る粉末茶(ダスト、と呼ばれる大きのの原料茶)が主となっています。
これがティーバッグだと1分で淹れられる秘密なのです。
CTCとは、Crush(砕く)Tear(裂く)Curl(丸める)の頭文字で、この三種の動作を一度に行なう機械です。
仕組みは、ステンレス製のローラー2本の隙間を茶葉が通るようになっていて、ローラーの回転数が毎分700回と70回と異なるため、2本の間で茶葉が加工されるようになっています。
ローラーの回転によって茶葉が巻き込まれ、ローラーの表面に刻み付けられた突起で茶葉は裂かれ、斜めに刻まれている溝で茶葉が丸められて粒状に整形されるようになっています。
CTC製法でなく、通常のカットされた茶葉を作る際に使われる機械はローターバンといって、挽き肉機を応用した仕組みになっています。
これは茶葉を圧搾して細かく切砕するもので、生産工程の中で例えばこれを二基連続して茶葉を通していきます。
カットしないホールリーフタイプを揉捻するには揉捻機を使います。
これは手揉みを機械化したもので、茶葉を揉盤の上に入れて上から蓋で押さえて加圧しながら回転させる機械です。
この加圧の程度と時間は細かくコントロールされています。
カットするブロークンタイプの場合も、もともとこの揉捻機を使って揉捻していました。
この場合は揉盤の中央が突起していてそこから放射状にいくつかの山型が伸びているような形状の揉捻機を使います。
紅茶(荒茶)の製造工程を整理しますと、
○萎凋→(→揉捻→玉解・篩分→)→発酵→乾燥
繰り返し
というのがオーソドックスな製法ですが、
○萎凋→(→揉捻→玉解・篩分→ローターバン→玉解・篩分→)→発酵→乾燥
繰り返し
といった製法もブロークンタイプの生産には使われ、
○萎凋→揉捻→CTC→発酵→乾燥
○萎凋→ローターバン→CTC→発酵→乾燥
という、効率の高い製法が広まっています。
さてCTC機では、茶葉の細胞がまんべんなく潰され、葉の汁が葉の外に出ているために発酵を含めた生産工程が短時間で済みます。
しかもこのため、最終商品となってぼくらが淹れる時にも、短時間で抽出することができるようになっています。
CTC製法による紅茶はカップ水色も良く、ごく短時間で入れられます。
また、紅茶独特の渋味を含めてカフェイン・カテキンといった水溶成分が湯中に溶けだしやすく、味の良いお茶を楽しめます。
煮出しミルクティーにも最適といえるでしょう。
戦後紅茶生産が大規模に広まったアフリカのケニヤなどでは、ほとんどがこのCTC機を利用した製法になっています。
しかし、香りについては、残念ながら大きく後退しているように思います。
紅茶に対する価値観が、茶葉の見た目から淹れた時の水色・香味を中心に評価するように変わってインドやセイロンの機械化された紅茶が普及しました。
淹れる早さや簡便さを重視することによって、ティーバッグが普及し、CTC機による製法が広まっています。
ティーバッグの紅茶から紅茶を知る人が、着香茶に走ってしまうのもやむなし
かと思ってしまいます。
その中で、香りを求める人達は、あるいは青臭い香りの紅茶(インド高地茶等)に走り、あるいは着香茶に走っています。
あるいは、中国茶の一部、半発酵茶の岩茶やその流れを汲む台湾の包種茶や凍頂烏龍茶へ行く人が出て来るかも知れません。
実際には、CTCが全ての地域に採用されたわけではなく、スリランカ各地、ニルギリ、ダージリンではほとんど採用されていません。
これらの地域ではオーソドックス製法を機械化したかたちでの紅茶生産が続いています。
やはり、ティーバッグにたよらず、ポットに茶葉を入れて飲む人はまだまだ世界では多いのです。
そして、おいしいお茶を楽しむ人もまた多いのでしょう。
ティーバッグ(ぼくもよく利用します)も良いですが、ポット(急須)に茶葉をいれて、紅茶を楽しんでみませんか。