斎藤 惇夫の「グリックの冒険」は大好きな一冊です。
「冒険者たち ガンバと十五匹の仲間」は、最初から最後まで楽しめる、ドブネズミのガンバの冒険のお話です。友人のマンプクに誘われて、しぶしぶ快適な住処を出て、船乗りネズミの年に一度の集まりに出るため、ちょっと港まで行った街ネズミのガンバは、港で様々な船乗りネズミと出会い、宴に参加します。ところがそこに、イタチのノロイに壊滅させられようとしている島から逃げてきた島ネズミの忠太がやってきます。
島ネズミたちを助けようと叫ぶガンバに、ノロイの恐ろしさを知っている船乗りネズミは、先ほどまでの勢いはどこへやら、皆、背を向けて去っていってしまいます。ひっこみがつかず、島に行くことに決めたガンバは忠太と二匹、なんとか船に乗り込みます。
ところがその船倉に、逃げてしまったはずのネズミたちが一匹また一匹と現れ、そしてガンバと15匹の仲間はイタチのノロイの待つ島へを目指します。
船上で夜明けを迎え、はじめて海をみたガンバの感激は、まるで自分のことのように興奮します。
ヨイショ、ガクシャ、イカサマ、シジン、マンプク、ジャンプ、カリック、テノール、バス、バレット、イダテン、アナホリ、そしてボーボ、オイボレという仲間それぞれには特徴があり、その特長を発揮しながら冒険は進んでいきます。
白イタチのノロイは、美しく、賢く、狡く、恐ろしい敵です。
島ネズミの生き残りと合流し、忠太の姉潮路と出会い、おいつめられたネズミとイタチとの間の心理戦、歌や踊りでの対決、そして最後の戦いへと進む物語は、まさに息つく暇もない面白さです。
ガンバよりグリックが好きなのは、先に読んだのもあるけれど、やはり、グリックの方に感情移入できるから。
物語としての面白さは、「冒険者たち ガンバと15匹の仲間たち」の方がもちろん上ですけれど、「グリックの冒険」は主人公への思い入れが強いのです。
家で飼われているシマリスのグリックは、伝書バトのピッポーから窓越しに仲間たちがたくさん住むという「北の森」の話を聞き、身体からふしぎなあこがれに満ちた感情が流れ、胸に押し寄せてきて、とうとうカゴから脱走して町、畑、丘、畑、川、海、山の先にあるという「北の森」を目指して旅立ちます。
街中で車道を渡れず早くも立ち往生したグリックは、ドブネズミのガンバに出会い、ガンバの戦い(ドブネズミとクマネズミの決戦)に参加し、街の北外れのシマリスのたくさんいる森へ連れて行ってもらいます。
しかしそこは、「北の森」ではなく動物園でした。
いつのまにか動物園でガンバの戦いを語る毎日に落ち着きはじめたグリックに、「・・・あなた自身の戦いの話が!いつになったらあなたは・・・」との叫び声を聞きます。声の主は怒った動物園のシマリスたちに隠されてしまいますが、グリックは動物園を出てさらに北を目指す決心をします。
声の主はめすリスのんのんでした。足をいためてびっこをひきながらもグリックの後をつけ北の森を目指すのんのんと、グリックはやがて一緒に行くことになります。二匹は本格的な冬の訪れが来て雪に覆われる前にと、旅を急ぎます。
猫やタカなどに襲われながらも二匹はかろうじて、畑、丘、畑、川、海と進みます。北の森の仲間たちが地面深く掘った穴の中にたっぷり蓄えた木の実と共に冬眠し始めるころ、二匹もまた眠気に襲われながらも、ようやく「北の森」の手前だという山を登りはじめます。山は既に雪に覆われ、山の峰の向こうにあったはずの「北の森」も雪の中にすっかり埋もれ、二匹は「北の森」を目前にして雪の中に力尽きそうになります。
クライマックスの感動もすばらしいですが、ガンバ等ドブネズミとクマネズミの戦い、動物園のリスたち、のんのんとの二匹での旅、初めて見た海、どれをとっても印象深いです。
とりわけ、強い憧れに突き動かされて、本当のうちに行こうとする旅立ちの動機と、ガンバとの別れ「あれは、おれたちの戦いだったのさ。いいかい、君の戦いはあれじゃなくて、これからだ。君は、君自身の戦いを戦えばいいんだ」は、ガンバの冒険とグリックの冒険の大きな違いを表していると思います。
空を飛んでいくピッポーと異なり、地を歩くしかないグリックとのんのんの旅は、どうしようもなく等身大です。
三作目の「ガンバとカワウソの冒険」は、長く待たされて、ようやく出版されました。
幻のニッポンカワウソの物語です。四万十川でニッポンカワウソの仲間をガンバが一緒に探そうとしますが、どこにもニッポンカワウソは見つかりません。
オオカミやトキのように滅亡を迎える動物が主人公というテーマが重く、厳しい一冊となっています。
成算があるわけでもなく旅をするのは「グリックの冒険」もそうですし、「ガンバの冒険」も脳天気な明るさとは裏腹に勝ち目がない戦いなのですけれど、「ガンバとカワウソの冒険」は、絶滅寸前のニッポンカワウソという事実や、「豊かな流れ」たる四万十川の現状は、フィクションの越えられない現実を突きつけられていて、つらいものです。
この三部作では、薮内正幸さんの挿絵が、またとても良いです。
どの動物もとてもリアルで、表情豊かです。
アニメ化されて、がっかりしたのは、この挿絵に遠く及ばないものでもあったからだと思います。